史上最高値の日、17個の数字が手で選ばれた
2022年6月4日、CAW は史上最高値をつけた——18:14 UTC、約$0.000000164。サイトもホワイトペーパーも公式チームも無いまま、ローンチから約7週間で届いた高値だ。同じ日、まったく別の場所で起きていたことの記録も残っている。そちらには、値段の話が一行も出てこない。❶ そのリポジトリが作られたのは、2日前の6月2日だった。いまの CAW のコードがフォークされてきた、その元のリポジトリだ。6月2日、3日、4日——名前NFT、つまり CAW のユーザー名をNFTとして持つときの、あの正方形のカードの絵を、まるごとチェーン上で描く契約は、この3日間で書かれている。❷ ファイルそのものが生まれたのは6月3日 18:46 UTC。このとき、文字の大きさの表はもうコメントとして書かれていた——1文字なら 169、2文字なら 149、3文字なら 99……と全部で17段。ところがコードのほうは、13文字から17文字までを `35 - length`(35 から文字数を引く)という式で出していて、それより短い名前だけが一つずつ書き下ろされていた。しかもその式は、同じファイルの上に書いてある自分の表と、5段のうち3段で食い違っていた(15文字・16文字・17文字)。❸ 1時間半後、6月3日 20:16 UTC のコミットには「Added shadows to the logo(ロゴに影をつけた)」としか書かれていない。ロゴにはたしかに影がついた。そして同じコミットで、式が捨てられている。13文字から16文字も、短い名前と同じように一つずつ書き下ろされた。採られた値は、式の出した数字ではなく表のほうだった。17行あったコメントの表は消え、その場所に一行だけが残った——`These were hand chosen:`(これらは手で選んだ)。❹ 翌朝、6月4日 09:10 UTC のコミット「made a few improvements to the styling…(見た目を少し良くした……)」で、17段のうち16段が選び直された。そのままにされたのは、3文字の 99 ひとつだけ。6文字と7文字がどちらも 42 だった平坦も、このとき解消されている。その約9時間後に、最高値がついた。❺ そして、いま。開発は2024年に別の人へ渡り(年表「開発のバトン」)、契約の名前も変わり、文字を描く部分は作り直された。いまのコードは字形を54個——英数字ぶんの36個と、合字18個——チェーン上に持ち、どの合字を使うかを選び、幅に合わせて詰める。それでもカードの枠は 270×270 のままで、ロゴのパスは1文字も変わっておらず、文字を置く基線も、説明文も、誤植ごと2022年のままだ。そしてその中に、この表が置かれている——176, 133, 99, 77, 64, 55, 49, 44, 40, 36, 33, 31, 29, 27, 25, 23, 22。17個すべてが、2022年6月4日 09:10 UTC の値と一つも違わない(2026年7月31日時点のコードで確認)。しかも1箇所ではない。契約の中に2つ、画面を描く側のコードにさらに2つ、同じ17個が置かれている。この17個は、描かれる大きさそのものではなく出発点だ。いまのコードはここから、細い文字(i・j・f・l・t)1つにつき 3 を足し、それでもはみ出すなら幅に合わせて詰める。試しに、この観測所の名前をデプロイ済みの契約へ通してみた——cawobservatory は14文字だから表では 27、`t` が1つあるので +3 されて、チェーン上に実際に描かれているのは 30 だった。※ 上の時刻はすべて UTC で書いた。ただしコミットに記録されている時刻(Git の author date)には +07:00 のずれが付いていて、その時計で読むと3件とも6月4日の同じ1日になる——01:46 にファイルができ、03:16 に「手で選んだ」と書かれ、16:10 に選び直された。UTC で読めば「前の晩と翌朝」、その時計で読めば「ひと続きの一日」。同じ記録の別の読み方で、どちらがその人の暮らしだったのかは分からない(同じ署名は、同じ年の10月には +02:00 を記録している)。3つのコミットは同じ Git 署名だが、それが同一人物かどうかまでは確かめられない。後から一度まとめ直された形跡もあり(3件とも記録上の時刻が秒まで同じ)、「その時刻に机に向かっていた」ことも確かめられない。そして値段とこの作業を結びつけることはしない(因果は未確認)。同じ日に別々に起きたことを、ただ並べているだけだ。もうひとつはっきり書いておく。この名前NFTがいま動いているのは Sepolia のテストネットで、Ethereum の本番にあるのは CAW トークンそのものだけだ。──なぜこれを残したか。史上最高値の日というのは、たいてい値段の話しか残らない。チャートのてっぺんに点が打たれて、それで終わりだ。でもその同じ日、名前を1文字で取れた誰かのために 176、2文字なら 133、と大きさを一つずつ選んでいた手があった。頼まれた形跡はどこにも残っていないし、その日の値段の記録に、この作業は一行も出てこない。だからあの日の記録は2つある——チャートの点と、17個の数字だ。試しに caw と入れてみてほしい。返ってくるのは、いまも 99。あの朝ひとつだけ選び直されなかった数字で、それから4年、いちども触られていない。17個ぜんぶが、いまもそこにある。まだ誰にも取られていない名前のぶんまで、ちゃんと1個ずつ。🐦⬛