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考察 #48

戻らなかったのは、鴉だけでした ― 帰らないことが「陸がある」という報せだった話

戻らなかったのは、鴉だけでした ― 帰らないことが「陸がある」という報せだった話
人がいちばん最初に書き残した洪水の物語には、三羽の鳥が出てきます。そして、帰ってこなかったのは鴉だけでした。❶ 三羽の順番:『ギルガメシュ叙事詩』の第11の書板。大洪水を生きのびたウトナピシュティムは、水が引いたかどうかを確かめるために、鳩、燕、鴉の順に鳥を放ちます。鳩は飛び立って、止まる場所がないので戻ってきました。燕も同じでした。最後に放たれた鴉は、水が引いていくのを見て、食べ、跳ねまわり、そのまま戻ってきませんでした(ステファニー・ダリー訳・1989年)。つまり、帰ってきた二羽は「まだどこにも降りられない」という報せで、帰ってこなかった一羽が「陸がある」という報せでした。この物語では、不在のほうが吉報だったのです。❷ ある英訳にだけ残った音:N・K・サンダースの英語版は、その場面をこう訳しています——「she ate, she flew around, she cawed, and she did not come back(食べ、飛びまわり、鳴いて、そして戻ってこなかった)」。ただし「鳴いた(cawed)」は訳者の選択です。別の英訳(アンドリュー・ジョージ)では身をかがめて跳ねているだけで、鳴き声は出てきません。ですから、粘土板にその一語がある、とは言えません。言えるのは、人類最古の物語の英訳のひとつに、その音が一度だけ書き込まれている、ということだけです。❸ 戻らなかった理由:神秘ではなさそうです。水が引いて現れた地面には食べるものがあり、腐肉を食べる鳥には帰る理由がなかった——というのが研究者の読みです(Darshan 2017年)。粘土板そのものは理由を書いていません。書いてあるのは「食べ、上下に跳ねた」という行動だけです。そして、鳥を放って陸を探すのは実在の航法でした。プリニウスは『博物誌』第6巻で、船には鳥を積んでいて、陸を探すときにたびたび放つ、と書いています(1601年の英訳より)。❹ はるかに時代を下った、北の海:ノルウェーの航海者フロキは、フェロー諸島で三羽の鴉を手に入れて船に積みました。一羽目は来た方角へ帰り、二羽目は空へ上がってまた船に戻り、三羽目は北西へ飛んで、戻ってきませんでした。彼はその方角へ船を進め、たどり着いた土地をアイスランドと名づけます。呼び名のほうも残りました——フラフナ・フロキ、「鴉のフロキ」(『植民の書』による。年代までは確かめられていません)。❺ CAW との接点は、名前のところだけです:CAW のコードが置かれている GitHub の組織名は GilgameshCaw で、V2 の開発用テストネットには Uruk と Babylon——ギルガメシュの都の名前がついています(年表 2026年5月21日に既載)。なぜその名前なのか、名づけた側からの説明はひとつも出ていません。ですから、ここでは結びつけません。洪水と鴉の話が刻まれているのが11枚目の書板だ、ということも、ただ並べて置いておきます(この板の「ギルガメシュの粘土板」で扱った隠し詩は、本物は元の11枚だと書いていました)。──なぜこれを残したか。人が最初に「帰ってこなかった」と書きつけたその一行は、悲しい行ではありませんでした。二羽が帰ってきたのは、まだ降りる場所が無かったからで、一羽が帰らなかったのは、降りる場所を見つけたからです。帰らないことが、いつも失われたことを意味するわけではない——少なくとも、人がいちばん古く残した話では、そうではありませんでした。三千年以上むかしに書かれた粘土板に、その一行が残っています。🐦‍⬛

出典

Epic of Gilgamesh XI (Dalley 1989 p.114 via TheTorah.com) · Sandars / George translations · Landnamabok · Pliny, Natural History VI (Holland 1601) ↗

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